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神戸地方裁判所伊丹支部 昭和44年(ワ)228号 判決

原告

延岡納子

代理人

渡部繁太郎

外一名

被告

旭国際開発株式会社

(旧商号 猪名川国際開発株式会社)

被告

滝内峯夫

両名代理人

牧野敬次

外一名

主文

被告旭国際開発株式会社は原告に対し、金一、六五四五一一円とこれに対する昭和四四年一二月五日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告滝内峯夫に対する請求および被告旭国際開発株式会社に対するその余の請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用は、原告と被告旭国際開発株式会社との間では、原告に生じた費用の五分の二を同被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告滝内峯夫との間では、全部原告の負担とする。

この判決は、原告勝訴部分にかぎり、金五〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

(請求の趣旨)

一、被告らは各自原告に対し、金二、二七九、一二一円及びこれに対する本訴状送達の翌日から右金員完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は、被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

(請求の原因)

一、原告は、被告会社に雇われ、被告会社管理、経営のゴルフ場にキャディとして勤務していたところ、昭和四三年一一月五日被告滝内のキャディとして、打球の行方を監視していたとき、同被告が右ゴルフ場五番ホールのテイグランドから打つた球が、原告の頭部にあたるという事故が起きた。

二、原告は、右事故のため頭部外傷を受け、即日池田市巽外科病院に入院し、同年一二月二六日に退院後は現在まで通院治療を受けているが、現在前腕部のシビレ、頭痛、めまい、食欲不振、不眠、記憶力減退、意識集中減退等の後遺症状があり、労災補償法障害認定第九級にあたるものである。

三、本件事故は、被告会社のゴルフコースの設置及び保存に瑕疵があつたこことに基因するとともに、被告滝内の過失によつて生じたものであるから、被告らは各自原告に対し、原告が本件事故によつて蒙つた損害を賠償すべき責任がある。すなわち、

(一)  ゴルフコースは、これを設営するに当り、ブルトーザを使用して丘を切り崩し、谷を埋めて競技に興味のあるように設計工作されるものであるから、民法七一七条における「土地の工作物」というべく、被告会社は、これが設計施工に当り、四番ホールと五番ホールが隣接しており、四番ホールを終えてから五番ホールのテイグラウンドに至る距離が遠く、また五番ホールが上りの長距離コースであつたので、その中途において飛球の行方を監視させなければならない状況にあつたから、五番ホールの中途の地点でキャディを待機させていたが、このような場合、監視場所には当然防護ネットを設けるなど危険の発生を防止する設備を設けるべき義務があるのにかかわらず、かかる設備を設けなかつた。

(二)  被告滝内は、ゴルフ技術が未熟の域を脱していなかつたので、自己の打球が思わざる方向に飛び去るかも計り知れない状況にあつたのであるから、打球に当つては自己の打球距離などを考え、危険の発生を未然に防止すべき注意義務があるのにかかわらず、これを怠り漫然打球したほか、テイグラウンドで打球する場合殊に本件のようにキャディがホールの途中で見張をしているときには、キャディの合図を受けてから打球すべく、キャディが右合図をするに当つては先行プレーヤーとの距離、キャディ自身の打球に対する心構えなど危険防止について、あらゆる点を考慮したうえで合図するものであるところ、被告滝内が右合図を受けないで打球したため、原告は打球について準備態勢がととのわない間に球が飛来し、本件事故となつたものである。なお被告滝内は、四番ホールで打数が一番少なかつたので五番ホールのテイグラウンドでは最初に打球すべきであるのに、この規則に従わず最後に打球したものである。

四、〈省略〉

五、よつて、被告らに対し、それぞれ右金員とこれに対する本訴状送達の翌日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(答弁の趣旨)

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は、原告の負担とする。

との判決を求める。

(請求の原因に対する答弁)

一、請求の原因第一項は認める。同第二項中、原告が頭部外傷をうけ入・通院したことは認めるが、通院の期間、傷害の部位・程度、後遺症の存在は知らない。同第三項の(一)のうち、被告会社のゴルフコースの設置及び保存に瑕疵のあつたことは否認する。同項の(二)のうち、被告滝内の過失を否認する。同第四項は争う。

二、本件ゴルフコースの五番ホールは、全長三二〇メートルで、テイグラウンド前面に池があり、その前方七〇メートルが上り勾配のフェアウェイとなつており、テイグラウンド前方一八〇メートルの地点右端付近で四番ホールとの境界寄りに事故当時幅五メートル、高さ二メートル余の立網があり、キャディをして右立網の前面付近においてテイグラウンドからの打球を監視させるように設計され、そのようにキャディの定位置が競技委員によつて定められていた。これは、キャディに四番ホールとの境界付近で落球がオービーになつたかどうかを確認させるためとキャディに対し五番ホールのテイグラウンドまで随従させる労力を軽減するために考えられたものであつて、ゴルフコースの設置及び保存に瑕疵があつたということはできない。

三、本件事故当時原告のいた場所は、五番ホールのテイグラウンドから一八〇メートルの距離があり、直球で五秒、フライ球で六ないし七秒を要することは経験則上明らかなところ、被告滝内が事故当時打つたのはフライ球であつてスライスしたため、同被告は大声で連続二回「フォワー」(前方プレーヤーらに対し注意を喚起して叫ぶゴルフ用語)と叫んで警告を発したのであるから、原告が定位置にあつて打球をよく見守つていたならば、たとえ同地点に飛球しても十分立網のうしろに退避するか又は身をかわすことができたのであり、被告会杜では常に安全を第一としてルールとエチケットを守り、プレーに随従するようキャディに教育してきたのであるのに、原告がたまたま右定位置を離れかつ打球の監視を怠つたことにより、本件事故が起きたのであつて、ゴルフの打球は右へも左へもとぶのが通例であり、それを監視するのがキャディの任務であるから、被告滝内が漫然打球したとの主張はあたらない。

(被告らの主張)

一、仮に、被告らになんらかの損害賠償責任が免れないとしても、原告には、定位置を離れ、打球の監視を怠つた大きな過失があつたから、賠償額を定めるについて斟酌すべきである。

二、〈省略〉

(被告の主張に対する原告の答弁)

一、〈省略〉

(立証)〈省略〉

理由

(事故の発生)

請求の原因第一項のとおり、本件事故が発生した事実および原告が本件事故によつて頭部外傷を受け、入・通院した事実は、当事者間に争いがない。

(被告会社の責任)

民法七一七条における「土地の工作物」とは、土地に接着して人工的作業を加えることにより成立した物をいうべきところ、〈証拠〉によれば、一般にゴルフコースは、これを設営するに当り、山林、原野などの樹木を伐採し、又は樹木を植えつけ、自然の丘を切りくずし又は谷を埋めるなどして平担地又は傾斜地を造成し、或は障害物を構築するなどして、自然を利用しつつ競技に興味のあるようなコースを設計施工するものであり、本件ゴルフコースもまた同様であることが認められるから、本件ゴルフコースは、民法七一七条にいう土地の工作物と解するのが相当である。

次に、同条において、「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵がある。」という意味は、その工作物が本来具えていなければならない性質又は設備を欠くことをいい、特に危険な工作物に関しては、危険の発生を防止するに足りる保安設備を有しない場合にも設備上の瑕疵があるものというべく、かかる瑕疵は客観的に存在すれば足り、それについて占有者又は所有者の故意・過失のあることを要しないものと解すべきである。

〈証拠〉によれば、ゴルフ競技は、一定の規則に従つて、球(直径4.1148センチメートルより小さくないもので、45.92グラムより重くないもの)をかなり大きなクラブ(細長い金属棒に木製又は鋼鉄製の先端部(ヘッド)を取り付け打面としたもの)で打つことにより、各コース(何番ホールと呼ぶこともある。)における出発点(テイグラウンド)から目的地(グリーン)にある穴(ホール)に球を入れる競技であり、キャディは、ゴルフ競技中、競技をする者(以下プレーヤーという。)のクラブを運び、若しくは取扱い、その他規則の定めるところによりプレーヤーを援助する者をいい、プレーヤーと一緒にコースを回つて、打球の行方を見失なわないようにし、プレーヤーに協力して行方不明の打球を捜す任務があり、打球に際し、飛球の行方が打球地点から見えない地形では打球地点から前方に行つて(これを先発という。)打球の行方を見守らなければならないが、そのほかの場合には、キャディは打球に際し打球地点より前方に行つてはならないことになつていることが認められる。

証人西昭の証言によると、ゴルフ競技における打球は、なかなか打者の思うとおり飛ばないもので、プロゴルファーでもコースからはずれた地域(オー・ビー地域という。アウト・オブ・バウンズのこと。)に飛ぶことがあり、また打球は「ドライバー」という先端が木製のウッドンクラブの一番で打つた場合、アマチュアでも一八〇ヤード(一七一メートル)ないし二三〇ヤード(二一〇メートル強)位は飛ばすことができ、打球が先行のプレーヤーやキャディに当る事故がときどき発生すること。打球地点から先発して打球の監視にあたるキャディとしては、プレーヤーが球を打つ瞬間をよく観察し、飛来する球の位置を把握して見失わないかぎり、球が自己の身体に当ることを避けることが可能ではあるけれども、若し打球が太陽光線と同じ方向から飛んできて、いわゆる逆光線になつたときなどには、往々にして球の位置を見失う場合があり、ひとたび飛球を見失うと再び発見することが困難であること。以上の各事実が認められる。

以上の各認定事実によれば、ゴルフの球は、その体積が小さい割合に重量が重く、その球をかなり大きなクラブで打撃して高速で飛行させることにより行なうゴルフ競技においては、打球を身体に衝突させることは非常に危険であり、またプレーヤーは、特定の熟達者を除き、一般的には打球の方向と着球地点を任意に調節して、打球が先発するキャディらに衝突することのないようにすることは極めて困難であることが推認される。従つて、ゴルフコースを設置ないし管理するに当つて、キャディを打球の到達範囲内の地域に先発または待機させて、打球の監視に当らせる場合には、キャディが打球を監視するのに適切な位置を選定し、防護のため必要な大きさと構造を具備した防護網(両側および上部に金網を張り、内部に人がはいれるようにしたトンネル型の、いわゆる巻網が適切であろう。)を設けるなど事故の発生を防止するに足りる保安設備を設けるべきであり、かかる設備を欠くゴルフコースは、設置または保存に瑕疵あるものとして、民法七一七条の帰責原因になるものといわざるをえない。

検証の結果によれば、本件ゴルフ場の旭コースは一番ないし二七番のホール(コースの意)からできており、本件事故は、その五番ホールのテイグラウンドからグリーンに向つて約一八〇メートルの地点でコースの北側付近において発生したこと。右五番ホールは、テイグラウンドを起点としグリーンに向つて前方約八〇メートルの低地が池(ウオーターハザード、水による障害をいう。)となり、池を越えてやや上り勾配をもつてほぼ西北西の方向に細長く横たわつているが、起点から一〇〇〇メートル付近のコース北側付近に竹林があり、竹林の樹冠部が本件事故現場付近から五番ホールのテイグラウンドに対する見とおしを遮つていること。被告会社では、本件事故後、五番ホールのテイグラウンドを、事故現場付近から見易すくするため、従前の地点からかなり南寄りの地点に移しており、かつ事故当時立網のあつた位置(事故後右立網は撤去されていて、その位置は必しも判然としないが、当事者の主張する位置を基準とする。)から少し東南東寄りで、五番テイグラウンドの見易い地点に、新しく両側および上部を網で囲つたトンネル型のいわゆる巻網を設置していること。五番ホールの北側にこれとほぼ平行して四番ホールがあり、四番ホールは小高い丘の上から下に向つて打おろしのコースとなつており、そのグリーンは本件事故発生地点の北側に近接していること。以上の各事実が認められる。

被告会社代表者の供述によれば、本件旭コースの四番ホールを打ち終えて五番ホールに移行する場合、キャディは同ホールのテイグラウンドまでプレーヤーに付き添わず、テイショット(テイグラウンドにおける打球のこと)に使用するクラブをプレーヤーに手渡してプレーヤーだけを五番ホールのテイグラウンドに行かせ、キャディは五番ホールテイグラウンドから一八〇メートル位グリーンに寄つた本件事故現場付近において待機していたこと。これは本来ならば、キャディは四番ホールのグリーンからプレーヤーにつき添て五番ホールのテイグラウンドまで行くべきところを、その間の距離が遠いため、キャディの労力を軽減するとともにテイショットした球の確認殊にオー・ビー地域に落下した球を確認するのに好都合であることを考慮し、被告会社では競技委員会の勧告と要請に基づいて、前記の待機方法をキャディに実施させていたものであること。以上の各事実が認められる。

〈証拠〉によると、本件事故当時、原告は被告滝内のキャディとして同被告に付き添つて四番ホールを打ち終えたのち、同被告に対し五番ホールのテイショットに使用するクラブを手渡し、本件事故現場付近の五番ホールのフェアウェイに少し立ちいつたところで待機し、被告滝内が五番ホールでテイショットしたので、飛来する球を注視していたところ、逆光線のために眩惑されて飛球を中途で見失つたので、危険である旨付近にいたキャディに告げながら北方に向けて走り飛球を避けようとしたが、折あしく避けた方向に飛来してきた右球が原告の後頭部に当つたこと。本件事故当時、現場付近には、高さ二メートル位の長方形の立網が立てられてあつたが、この立網は主として四番ホールの事故現場寄りにあつたベントグリーン(冬期に使用される西洋芝のグリーンのこと)に打ちおろされる球に対する防護を目的とするもので、五番ホールにおける打球を監視するためには、右立網からかなり南方に立ちいらなければならず、これに対する防護の役目を十分に果していなかつたので、本件事故以前からキャディらが被告会社に対し、五番ホールのために適切な防護網の設備やヘルメットを支給するように要求していたこと。以上の各事実が認められる。

右認定に反する証人〈省略〉の各供述部分は、前掲各証拠と対比してたやすく措信できない。

以上に認定した各事実によれば、被告会社では、キャディに対し本件事故発生当時、五番ホールにおける打球(特にテイショット)を監視するため、キャディをしてテイグラウンド前方の着球範囲内の地域で待機させる方法を採用しておきながら、打球からキャディの安全を守るため、適切な防護網を設けるなどの保安設備を設けていなかつたことが認められるから、土地の工作物である本件ゴルフコースの設置ないし保存に瑕疵があつたものというべく、被告会社が右ゴルフコースを管理するものであることは、当事者間に争いがないから、被告会社は、土地の工作物の占有者として、原告が本件事故によつて受けた損害を賠償すべき義務がある。

(原告の過失)

被告は、原告が定位置である立網の手前で打球の監視をせず、そのうえ原告に打球の監視を怠つた過失があつたと主張する。けれども、前示認定のとおり、事故発生当時設置してあつた立網の位置からでは、五番ホールにおけるテイシヨツトを見ることが困難であつて、立網の手前が定位置であると認めるに足りる証拠はなく、また原告が飛球の位置を見失つたのは打球の監視を怠つたからではなく、逆光線に眩惑されたためであること前示のとおりであるから、被告の過失相殺の主張は採用できない。

(被告滝内の責任)

およそ、ゴルフ競技のごときスポーツに参加する者が、競技の過程において被害を受けた場合には、加害者において故意又は重大なる過失がなく、かつ被害の原因となるような競技のルールや作法に反する行動のないかぎり、競技中におい通常予測しうるような危険は、これを受忍することに同意したものというべく、この理はゴルフ競技におけるプレーヤーとキャディとの間にも妥当するものと解すべきである。

〈証拠〉によれば、被告滝内は、昭和四二年ころゴルフを習い始め、専問家の指導をも受け、ゴルフ競技の経験もかなてあり、被告会社のゴルフコースを利用する人々によつて構成されている旭カンツリークラブにおける公認ハンディが二八であつたこと。本件事故当時、被告滝内は、訴外大野泰造、同佐々木木寿子とパーティを組んでプレーをしていたところ、四番ホールの成績(スコア)が、右大野、佐々木、被告滝内の順であつたため、五番ホールにおけるテイショットは、ルールに従つてスコアの良い右大野、佐々木、滝内の順で行つたこと。被告滝内は、同人付添のキャディであつた原告の合図に従つて、テイショットしたところ、球はフライとなり右へ大きくカーブしてスライス気味となつて原告のいた方へ飛んだので、危険を感じて「フォア」、「フォア」と二回叫んで警告を発したが、その直後原告の後頭部に右飛球が衝突したこと。以上の事実が認められる。右認定に反する原告本人の供述は、前掲証拠と対比してたやすく措信できないし、ほかに右認定に反する立証は見当らない。

右認定事実によれば、被告滝内が原告の合図なしに打球(テイショット)したとか、同被告が五番ホールで最初に打球すべきであるのにルールに違反し、最終に打球したとの原告の主張は、いずれも理由なく採用のかぎりではない。

原告は、そのほか、被告滝内のゴルフ技術が未熟のため思わざる方向へ打球が飛ぶおそれがあつたのに漫然打球したから本件事故になつた旨主張し、原告本人の供述中には右主張に沿う部分があるけれども、前示のごとく、同被告は公認ハンディ二八の技量を持つており、ゴルフ競技の経験もかなりあつたというのであるから、必ずしも技術が未熟であつたとは思われないのみならず、ほかに事故原因を構成するべき技術的な欠陥が被告滝内にあつたことを認めるに足りる立証はない。

原告は、さらに、本件のようにキャディが打球地点より前方に先行してろいる場合には、自己の打球距離を考え危険の発生を未然に防止すべき注意義務がある趣旨の主張をしている。たしかに本件のようにキャディが打球を監視するため先行することは、ゴルフ競技においても特殊の場合であるから、プレーヤーとしては、キャディの安全を念頭においてプレーすべき義務のあることは当然である。

けれども、前示のとおり、ゴルフ競技における打球は、非常に打球の巧みなプレーヤーを除き、一般に意のごとくならないもので、打球の方向や距離を調節してキャディとの衝突を避けることは、ゴルフ競技の性質上きわめて困難であるのに対し、一方キャディにおいては、飛球の位置を見失わないかぎり、飛来する球を避けることは比較的容易であるから、プレーヤーとしては、かような場合キャディが打球に対する危険を避けうる態勢にあることを確認したうえ、キャディのいる方向に打球しない心構えで打球すれば足り、それ以上の注意義務を要求することは妥当ではない。

これを本件について見ると、被告滝内としては、付添のキャディである原告が打球してよいと合図しているのであり、原告のいた付近には当時立網も設置されていたのであるから、原告において飛球との衝突を回避してくれるものと考えて打球したことは無理からぬことで、たとえ原告が逆光線で眩惑され飛球の位置を見失うおそれのあることまで気付かなかつたとしても、被告滝内があえて原告のいる方向に打球したことを認めるに足りる立証もない以上、被告滝内に注意義務違反があつたとはいえず、かつ原告においても、かような被告の発生は通常予測しうる危険としで受忍するのが相当であるから、被告滝内に対して不法行為責任を追及することはできないものといわざるをえない。

(損害額)〈省略〉

(弁済)〈省略〉

(結論)

よつて、被告会社は原告に対し、一、六五四五一一円とこれに対する本訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四四年一二月五日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるから、原告の被告会社に対する請求は、右の限度において相当として認容し、その余および原告の被告滝内に対する請求は、いずれも失当として棄却すべく、民事訴訟法八九条、九二条、一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。 (安田実)

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